2005年、ドイツ、イギリス、日本で国政選挙が行われました。
ドイツでは連邦議会選挙、イギリスでは庶民院選挙、日本では衆議院総選挙ですが、連邦議会も庶民院も日本の衆議院に相当します。
なお、今回は「イギリスと日本」、次回は「ドイツと日本」の2回に分けてお話します。
早速ですが、各政党の得票率と議席率を見てみましょう。
今回は選挙制度の話ですので、上位2党の得票率、議席率に絞ります。
数字や算数が出てきますが、苦手な方は少し我慢して頂ければと思います。
なお、日本の比例代表制については次回の稿にて検討します。
まずは選挙結果から。
◎イギリス庶民院の選挙結果(2005年5月5日実施)
政党: 得票率 → 議席率
労働党: 35.2% → 55.1%
保守党: 32.4% → 30.5%
総議席数646:労働党356・保守党197
◎日本衆議院の小選挙区選挙結果(2005年9月11日実施・郵政選挙)
政党: 得票率 → 議席率
自民党: 47.8% → 73.0%
民主党: 36.4% → 17.3%
総議席数300:自民党219・民主党52
まず、得票率の結果を見ますと、イギリス労働党と保守党の得票差は2.8%、日本の自民党と民主党の得票差は11.4%と、イギリスも日本も政党間で得票率に大きな差はありません。
この得票率の形式的価値を数値で表現してみましょう。
第1党の得票率を第2党の得票率で割るのです。
イギリス: 35.2% ÷ 32.4% = 1.09
日本: 47.8% ÷ 36.4% = 1.31
問題は議席率の結果です。
第1位のイギリスの労働党と日本の自民党は、得票率に対し議席率が増加し、反対に、第2位のイギリス保守党と民主党は減少しています。
この得票率と議席率の乖離こそが小選挙区制度の一般的な特徴なのです。
この乖離現象をもう少しだけ詳しく見てみましょう。
議席率を得票率で割ってみます。
政党: 議席率 ÷ 得票率 = 増加率
労働党: 55.1% ÷ 35.2% = 1.57
保守党: 30.5% ÷ 32.4% = 0.94
自民党: 73.0% ÷ 47.8% = 1.53
民主党: 17.3% ÷ 36.4% = 0.48
労働党も自民党も1.5倍以上と大幅な増加率で、共に過半数の議席を占めています。
一方、イギリス保守党は小幅な減少率ですが、民主党はかなりの減少率であります。
では得票率と議席率の実質的価値を数値で表現してみましょう。
第1党の増加率を第2党の増加率で割るのです。
イギリス: 1.57 ÷ 0.94 = 1.67
日本: 1.53 ÷ 0.48 = 3.19
もちろん、各選挙区における得票分布に偏在はあるものの、双方とも実質的価値に大きな数値が出るのは、小選挙区制度では1選挙区1定数を原則としているからなのです。
すなわち、当選か落選(次点)かは「たった1票の差」に因るのが小選挙区制度なのです。
以上をまとめると次のとおりです。
国: 形式的価値 → 実質的価値
イギリス: 1.09 → 1.67
日本: 1.31 → 3.19
このように、小選挙区制度においては、得票率の小差が議席率の大差を生み出す「怖い制度」なのです。
過半数に満たない得票率なのに過半数を占める議席率では、民意(得票率)が議会に変換されたとは言えないでしょう。
政治学上の経験則によると、一般に小選挙区制度は、二大政党制または一党優位制が生まれやすい傾向にあります。
換言すれば、小選挙区制度は、第3党以下の党にとっては厳しい制度であり、第3党以下が過半数にせまるくらいの得票率を獲得しないかぎり、第1党が簡単に過半数を占めてしまうのです。
なお、これは余談かもしれませんが、イギリスの知人によると、イギリスの大部分の有権者はマニフェストを購読していないそうです。
イギリスでは有料で市販されています。
大量の死票を生み出す小選挙区制度は「少数が多数を支配する制度」であり、過半数が支持しないマニフェストを守って何の意味があるかと考えることもできるからです。
【小泉純一郎元首相(自民党より)】ところで、得票層には大きく分けて、支援団体や後援会といった特定の政党支持層(不動票)と、時事情勢などによって支持政党を決める浮遊層(可動票)の2つに分けられます。
小選挙区制度では、可動票の取込力が選挙の「大きな」勝敗を分けるポイントとなります。
なお、郵政選挙の「意味」について少しだけ触れておきます。
小泉純一郎元首相は、自民党議員としては小選挙区制度に反対の立場でありました。
小泉元首相の解散権行使は、郵政民営化法案に反対されたことが本当の原因ではありません。
要するに、「自民党内の抵抗勢力」が民営化法案を「つるし」にかけ、「倒閣運動(おろし)」を繰り広げたことが本当の原因です。
小泉元首相が再三再四、解散を予告・警告していたのにもかかわらず。
「おろし」を真の目的として何か具体的なことを「つるし」にかけるのは、自民党の伝統的常套手法で、「小泉おろし」など珍しいことではありません。
そういえば、かつて小選挙区制度導入(政治改革法案)が叫ばれた時、小泉元首相はこの法案を「つるし」にかけ、倒閣運動を繰り広げたのではなかったでしょうか。
とはいえ、彼が郵政民営化を「キーワードに」可動票を取り込み、小選挙区制度をフル活用したことが「結果的に」自民党に大量の議席数を与えました。
この大量獲得議席数を問題視することは大切ですが、これは上記のとおり、問題の本質は小選挙区制度であって、小泉元首相自身ではありません。
この問題の矛先を小泉元首相に向けている者がいるようですが、全くの筋違いであります。
もっぱら小泉氏に問題があったのなら、当時の岡田克也氏は民主党代表を引責辞任する必要はなかったはずでしょう。
郵政選挙から4年が経ちました。
麻生太郎政権は相次ぐ自爆行為により支持率が低下しました。
自民党はこの4年間の総括を巡り、党内のあっちこっちで右往左往したまま総選挙に突入してしまいました。
今回の選挙ではどちらの党にどれだけの可動票が集まるかが注目点です。
※ イギリスの選挙結果はUK Parliamentより。
日本の選挙結果は総務省より。
(ともにpdf表示)







